井上泰夫氏のPEN-s

概ね美品だが、ファーンダーを覗くと見苦しいほど、白く濁って見える。本体レンズ3cmF2.8は、カビなどで汚れているが、一部に取り去ることができない欠陥があった。

 レンズの致命傷は代替えレンズを新たに入手し組み替えるしか治す方法はないが、このままでも、大きな汚れ(網状のカビ)は実際に撮影して確認したわけではないけれど除去できたので、普通に写真は撮れると思う。(逆光などの光の条件によっては、たまに白けた画像になるかもしれない)

 

 しかし、やっぱりクリアなレンズに直さななければすっきりした気持ちにはなれない。代替え部品として最初に注目したのはレンズスペックが同じで金額的に入手しやすい、焦点距離(3cm)と開放絞り値(F2.8)の露出計内蔵型のPEN-EEsだ。早速ネットで検索し入手できた。送料込みで約1500円。しかし、分解してみてこれは使えないということがわかった。EEsのレンズは同じペンシリーズのものでありながら、ピント調節方式が異なり、別設計の構造であった。(EEsはレンズの一部が前後に動いてピントを調整するタイプ。PEN-sはレンズ全体が前後に移動してピントを合わせるタイプ。)やっちまった!と思ったが、ここで挫折するわけにもいかない。

 

 新たにやや高額なPEN-sを部品取り用として手に入れるしかない。しかしながらネットで入手するのもリスクがある。なぜなら、それも同じような腐食があるレンズかもしれないのだ。慎重に出品者の説明文を読み、レンズの不具合を隠そうとしていないか推測し、ギャンブルのように大した根拠もないのに感を信じて落札。事前に質問をすればよいのでは?と思われるかもしれないが、質問してしまって「クリアです」と回答を得られたとしても、私が思うクリア感と出品者が思うクリア感とは全く一致しないことが多いし、落札希望者のライバルを増やす結果となり、安く手に入れることが難しくなる。

 

 落札できたものは、幸運な事に欲しいところの後ろ玉はクリアなものであった。この個体はボディーの金属梨地部分はムラムラに腐食して粉を吹いているようなほぼ最低レベルのものであったが、商品説明文からは嘘の表現と感じられるものは無かった。ごまかして逃げ道を作ろうとしているような文言は感じられなかったのだ。こうして直せる部品をめでたく比較的安価(送料込みで約3000円)に入手できた。 あとは井上氏のカメラに、クリアな後玉レンズを移植するだけだ。

再修理

 上記の修理が終わってしばらくして、井上氏から、巻き取りの不具合が出たとの連絡を受け、再度修理することになった。一度シャッターをきった後、巻き取りダイアルを回すと通常止まるはずの位置で止まらず二回巻き上げの状態になってからシャッターチャージが完了するという状態。36枚撮りフィルムなら72枚撮れるはずが36枚しか撮れないハーフカメラということになる。

 

 調べてみると、シャッター羽根に古い油がしみてきて、完全にシャッター羽根が動ききれていない状態であることがわかった。それが影響して、巻き上げ機構が完全な動きをすることが出来ないのだ。レンズをはずして、レンズが側からとフィルム側からの両面から、閉じられた羽根を何度もアルコールで拭くと黄土色の油よごれがティッシュに付着した。これで正常な動きを回復した。

 

 ついでにフィルムカウンターのプラスチック窓に目立つヒビがあったのを、以前入手していた使えないEESのものと入れ替えた。僅かなヒビはあるけれどずっと良い。実はこれは意外と難しい作業だった。うまくやらないと簡単にひびが入る。最初に手元にあった他のジャンクペンDのものをはずそうとしたらひびが入ってしまった。サイズがほぼ同じ当て物を均等に力を加えて押し込むようにする必要がある。

 

 

 

きれいになったカウンター窓
きれいになったカウンター窓

Rollei 35 S

 PENの修理時についでに直して欲しいものがあると井上氏から手渡されたローライ35S。その昔、私も所有していて、知り合いのカメラマンにモデル撮影の小物に貸してくれといわれ貸したら、モデルがテーブルから落として壊してしまったと壊れたローライ35sが戻ってきたことがあった。そのまま置物として放置していたが、マイコプラズマ肺炎にかかって入院した時に暇なので修理してみることにしたのだ。これが私のカメラ修理の始まりであった。壊れたカメラをそのまま返してくれた友人に感謝すべきかもしれない。

 

 さて、井上氏のローライは、軍幹部角をぶつけて盛り上がり、それが巻き上げレバーに干渉して具合が悪いという状況。軍幹部をはずして内側から変形した部分を打ち直して欲しいということだった。

 

 ローライの軍幹部のはずし方はちょっとむずかしいが、昔にいじった記憶がちゃんと残っていたのでスムーズにはずせた。ファインダーの右の巻き戻しレバーをはずしても、シャフトが引っかかり軍幹部が引き抜けないのだ。実はそのシャフトを半回転させると引き抜くことが出来る仕組みになっている。

 

 何とか内側から凹みを修正することが出来た。

 

新たに入手したPEN-S

 井上氏のPENを直してから、PENが気になっていた。安いPEN-Sを見つけたのでオークション手に入れた。安い最も大きな理由はシャッター不動ジャンクということだった。手元に届くと、軍幹部のへこみ、ファインダー曇り、レンズ曇り等が見られたが、程度は軽い。シャッターが復帰すれば買い得商品。

 

 シャッターはまったく動かない。シャッターが切れないから巻き上げも動かない。早速分解。まずはコントラストの低下したファインダーとレンズを分解清掃。致命的な腐食や拭い去ることの出来ない様なレンズの曇りも無く、拭くだけですっかりクリアな状態になった。

 

 いよいよ問題のシャッター部分。巻き上げ機構の不具合は無い。シャッターケースを開けてしまうとかなり面倒なことになるので、まずは開けずに直せるか試してみる。問題の原因を汚れによる機構の固着と考え、シャッター機構が納められているケースの隙間から、洗浄用のアルコールを注入。ガチャガチャ動きそうなところをいじってみるが動かず。アルコールをしみこませた綿棒で見えているシャッタ羽根を直接拭いてみると、ぎこちなくシャッターが動いた。

 

 そういえば、井上氏のPENもシャッター羽根に染み出した油が問題となっていた。これも同じだ。古い油が羽根同士をくっつける接着剤となっていたのだ。固着した油を根気よくアルコールで拭い去り、シャッターは正常な動きを取り戻した。